私は先輩の浮気相手。
手慣らしに弾いてみると、何でか安心する。
この音も。
ぎこちない手つきも。
あたしは先生に注意されてばかりだった。
もう嫌になって投げ出して、ピアノなんてやらなくなっていた。
だけど。
今はもう弾きたくてしょうがないって思う。
「綺麗な音、出てるな。かすみ」
ぐちゃぐちゃな音色の中で、綺麗な声がした。
ぴたりとピアノを弾く手が止まる。
「……しゅう」
「俺なんてピアノなんて、触ったことすらねぇよ」
昨日会ったしゅうと違って。
昔と同じ優しい表情だった―――。