鈴木くんと彼女の不思議な関係
今、お父さんって言わなかったか?
「お父さん、ちょっと。」
多恵が旧式のプロジェクターを持ち上げようとして、俺を見ている。俺に言ったんだよな。でも今、お父さんって言わなかったか?
「今、倉庫がゴチャゴチャしてて、一人じゃ上手くしまえなくて。」
「おう。」
とりあえず、プロジェクターを運ぶのを手伝ってやる。前世紀どころか、昭和の昔からあるのではないかと思われるような旧式のプロジェクターは、女子が一人で運ぶにはかなり重い。本人は失言に気付いていないのか、何もいわない。
「ありがとう、ございます。」
プロジェクターを運び仕舞い終わると、彼女は笑顔で礼を言い、俺の筋肉に羨望の眼差しを向ける。いつもの事だが、少し寂しい。他に取り柄がないと言われているようでもある。
彼女は大野多恵。演劇部、裏方組大道具担当の唯一人の1年。俺は鈴木宏大。同じく大道具の唯一人の2年で舞台監督を兼任している。要するに、裏方組大道具は正式には俺と彼女の2人きりなのだ。
ちなみに「お父さん」というのはあだ名でもなんでもない。単に彼女の言い間違いで、小学生が担任の先生をうっかり「おかあさん」と呼んでしまったみたいなものだ。
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