鈴木くんと彼女の不思議な関係
急遽、多恵が舞台に立つ事になったのは、主演に抜擢された美波が怪我で降板になったからだと聞いた。せっかくの舞台をおりることになるなんて、気の毒に。
客席の前の方に陣取って、他の部の演目が終わるのを待つ。放送室から出て来た川村を清水が呼び止めて、隣に座らせた。
「あれ?お前、ココにいていいのか?」
「や、今日は仕事ないんで。」
清水が俺の脇腹をつつく。触れてはいけない話題だったらしい。
「一年に任せたのか。」
「ちょっと早めに引退したんです。勉強やばくなってきたから。」
川村は軽薄に言った。口調だけはいつもの川村だ。
「公立医学部、狙ってるんで。」
確かにこいつは医者の息子だし、演劇部では浮いていた。何も知らなければ不思議でもなんでもない。だが、俺にはうっすらと事情が見えてしまった。神井の彼女になった多恵と一緒に活動することに、意味を見いだせなくなったんだろう。
「いや、イヤミじゃないですよ。先輩も頑張って下さいよ。」
「あぁ。。俺もちゃんと勉強してるよ。」
医者の息子。医者になるために勉強に励む事を、生まれながらに要求される子供。そのための資質を持って生まれて来たとしても、なんだか少し気の毒なような気もする。