鈴木くんと彼女の不思議な関係
「あんたがもう少しちゃんとしてくれたら、あんたになら多恵を譲ってあげてもいいのに。」
「まるで多恵がお前のもののような言い方だな。」
清水は、ちょっとその辺ではお目にかかれない程の美人だ。美人にもいろいろいるが、高めの身長、長い脚。デカい目に凛々しい眉、大きく整った口。女優になるために生まれて来たような容姿。勝ち気な性格で頭も良いときている。押しも押されぬ演劇部の看板女優だ。多恵は清水に心酔して、演劇部に入部して来た。
清水の方も、多恵を憎からず思っている事は周知の事実だが、彼女は時々、彼女の他人には言えない事情を俺に匂わせる。彼女は男に興味が無いと言う。そして多恵に、友情や母性愛ではなく、いわゆる恋愛感情を抱いていると言うのだ。あの柔らかい髪の匂いを嗅ぎ、小さな肩を抱いて、ピンクの唇にキスしたいのだと、あの娘と躯を重ねて、乱れさせてみたくなるのだと、冗談めかして俺にうちあける。
だが俺から見れば、清水のその気持ちも、多恵のコンプレックスと同様の思春期の気の迷いのように見えなくもない。多分、清水は男に恋をした事がないだけなんだろう。美人で優秀すぎる彼女がそうなってしまう経緯も、なんとなく分からなくもない。