鈴木くんと彼女の不思議な関係

 公演の準備を整えた裏方組に解散を指示し、多恵だけを残した。多恵は何の疑問も警戒もなく、俺と2人で部室に残った。完璧な信頼関係は、俺を男と思っていない証拠だったのかもしれない。

 薄暗い電灯のついた部室で、手を握って引き寄せて、髪をなで、頬や唇に触れても、彼女は少し怪訝な顔をしただけで、俺が笑うと笑顔を返してくれた。多恵が、あんまり素直に俺の言う事を聞くものだから、俺はすっかりその気になってしまった。

「俺、お前が好きなんだ。」思わず口からこぼれ出ていた。

 だが、1年間、兄のように接し続けた俺の告白を、多恵は本気にしなかった。何度目かのやりとりで、俺の意図をようやく理解したときの彼女の困惑した表情は忘れられない。彼女は明らかに戸惑って、逃げようとしたあげく、話が違うと怒りだした。俺は逆ギレして怒鳴りつけてしまった。

 喉の奥でつかえて暴れていた不満と凶暴な感情を、吠えるように吐き捨てた声は、あまりに大きく響いて自分で驚いた。ビリビリと部屋全体が揺れたような気がした。

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