鈴木くんと彼女の不思議な関係
「貴女の翼は何のためにあるの。その翼は貴女が空を飛ぶためのものではないの?」
多恵が2階で照明装置を操作して、私にスポットライトをあてる。多恵の作った翼を背中につけて登場する私を、多恵の操作する光が照らし出す。私の高校演劇部員としての最後の舞台。私はずっと演劇を続けるつもりだけれど、多恵と一緒に舞台に関わるのは多分これが最後だ。
多恵の作った坂を降りる。翼を背負った天使である私が足下を見る事は許されない。視線を客席に向けたまま、板を踏み外すかもしれない恐怖心と戦いながら、素早く、急な坂を駆け下り、鳥のように降り立つ。。背景にとけ込む手すり、客席からは見えないように反射板を貼付けた板、全て多恵が考えて取り付けてくれたものだ。
「美しいだけで飛べない翼に何の意味があるの?」
美しくあるのは、魅力的であろうとすることは、誰かに媚びるためではない。美しいだけの翼で空は飛べない。必要なのは、大きく丈夫な翼と、筋肉を鍛え上げる努力だ。自分の力で風を掴み、強く羽ばたいて、自分だけの力で飛ぶために翼はある。
私達には翼がある。翼の色に意味はない。磨いて、鍛えて、そして一緒に飛ぶんだ。貴女は貴女の翼で飛ぶ。私も私の翼で飛ぶ。そうして初めて同じ空を飛ぶ事が出来るのだ。