鈴木くんと彼女の不思議な関係
鈴木はそのまま「お疲れ」と言って帰って行った。演劇部へは顔をださないつもりらしい。
高校3年の5月。演劇部の正式な引退は4月の公演だから私達は既に引退済みである。でも、部によっては夏の大会が最後だったりもするわけで。
演劇部でも新入生が6月の最初の公演を終えるまで、基礎練習や本読みの指導などを手伝うために、ちょこちょこと顔を出すのが通例だ。
看板女優だった私は、新一年生の入部が固まるまでは、できるだけ顔を出して欲しいと頼まれていた。鈴木だって本来だったら2学年下の後輩部員達と顔をつないでおいた方が良いに決まってる。でも、多恵とあまり顔を合わせたくない気持ちも分からなくはない。
ため息が出た。多恵に玉砕してから、鈴木は持ち前の明るさが消えてしまった。確かに彼は今までも、他人の前では落ち着いた物腰の頼りになる好青年ではあった。
明るくてよく笑う。運動神経が良くて、顔も良いとなれば、女子が騒ぐのも無理はない。本人の知らない所で沢山の女子が彼を競って争っていて、多恵は鈴木のおかげで身に覚えの無い相手にずいぶんと苛められていた。
でも彼は、本当に親しい友人の前では、まるで小学生のような一面を見せる、やんちゃな男でもあったのだ。後輩が入れば兄貴顔をして、率先してイタズラを教えてやりたがるような。
そんな男の脚が部室から遠のいているのは、やはり見ていて気が滅入る。落ち着いた様子で黙々と勉強している鈴木には、なんだか違和感すら感じる。