鈴木くんと彼女の不思議な関係
部室へ顔を出すと、後輩の原と神井が、見学者達に部の活動について説明している。数人の役者がジャージ姿で待機していたので、更衣室で着替えて戻る旨を伝える。
その場にいた見学者達が私の顔をみて、表情を変える。笑顔で会釈を返すと、彼等は興奮した面持ちで、ざわざわと顔を見合わせる。「舞台で見たあの人だ。」と目で頷き合ってるいるのが分かる。
先日の公演で、私は主演でも準主演でもなかった。印象に残る役どころではあったが、単なる登場人物の1人で、出番だってそれほど長くはなかった。それでも顔は覚えられてしまう。私の知らない人が私を噂する。付き纏われた事もある。もちろん気持ち悪い。でもそれも慣れてしまった。鈴木だってあの容姿なら、似た様なものだろう。
役者志望の新入生の相手を手伝いながら、多恵の様子を伺う。真面目で優秀だが人見知りの彼女は、めずらしくフレンドリーな優しい口調で話していると思ったら、突然厳しい事を言ったりと、チグハグな対応をしていた。明らかに緊張した様子で頬を染めていて、なんだか可愛くて笑ってしまう。
でも優秀な部員を集めたいなら、あまり良い状況ではないかも。やっぱり鈴木に教えてあげよう。口実があれば部室に顔を出せるから。