甘い香りに誘われて【続編 Ⅲ 完結しました】
師走が近づき、毎日がバタバタと過ぎ、金曜日の夕方。広報室長の藤枝さんに呼ばれた。

「佐久間さん、急で悪いんだけど、先日取材した業務部の斎藤さんのインタビュー記事。今日中にまとめてほしい。できるかな?」

「はい、了解です!」

明るく答える私を、三奈が「超面倒な作業じゃん」と哀れみの表情。

藤枝課長の原稿作成に集中したいところだけど、こういう時に限って、細々とした雑用や電話対応に追われる。

間もなく定時という頃、藤枝室長に頼まれた原稿が完成した。多忙のなか仕上げた資料だけど、見やすくキレイにできたと我ながら思う。

プリントアウトした資料を藤枝室長に提出し、OKをもらった。

「お疲れさま」
ふわりと微笑みを残し、藤枝室長が部屋を出る。

私も帰ろっと、、、、アレ?
藤枝室長に渡した資料のデータどこ行った?

「あーーー‼︎ データ保存しないで閉じちゃった‼︎」

広報室内に、絶望的な私の叫び声が響き渡った。

「…三奈、私、残るね」

「手伝おうか?」

「大丈夫。調べた形跡は残ってるから、一から作るよりは早いはずだから。ありがとね〜」

・・・・・・

ところが、こういう時に限ってパソコンの調子が悪く、何度かフリーズしてしまい、予想外に時間がかかってしまった

20時を過ぎて、ようやく会社を後にした

季節は12月
街路樹に電飾が灯り、都は残業の疲れが少しだけ癒される。

(隣に恋人がいたら、もっと素敵に見えるんだろうな〜)

とイルミネーションを見ながら思う。

都には、過去に彼と呼べる存在がいたことはあるが、キス止まりで、いつの間にか自然消滅してる。

そのキスも、気持ちがいいとは到底思えず、これから先も自分に愛する人ができる事が想像がつかない。

「そんな人…一生巡り会えないかもね」と自嘲気味につぶやいた。

「誰に会えないの?」
ふいに後ろから声がして、都は慌てて振り返った。

「宮澤さん!」

(また変なとこ見られた!)

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