甘い香りに誘われて【続編 Ⅲ 完結しました】
三光堂は、会社ある大通りを、渡って少し歩いた所にある書店

雑誌コーナーのフラワーアレンジ本を手に取る。

来月のクリスマスを控え、表紙は有名フローリストが仕上げた大きなクリスマスリースだ。

アレンジ本に載ってるのは生花を使ったアレンジだけど、私は、生花を使わずシルクフラワーという生花そっくりの造花(アートフラワー)を使ってリースや置き型の作品を作っている。
作品を作っているといっても、趣味で楽しむ程度だ。

アートフラワーとはいえ、シルクフラワーの完成度は高く、私の部屋を訪ねた父が『これは水やりはどうするんだ?』と壁に飾ったリースを指差し聞いてきたくらいだ。

これから作ろうと思っているクリスマスリースの参考にしようと手に取った雑誌を眺めながら、造花と知った父の豆鉄砲をくらったような表情を思い出し、クスッと小さな笑いが漏れた。

自分の声で我に返り、誰かに聞かれてないか目だけ動かし周りを見てみる。

(良かった…誰にも気付かれてない)

また、視線をアレンジ本に移す。
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