腹黒王子に秘密を握られました
友野莉央(りお)、二十七歳。土地建物の取引や、アパートマンションの賃貸を取り扱う不動産会社『新栄ハウジング』。その中の、主に住宅の売買を仲介する営業一課で営業アシスタントをしている。
どんな雑用も文句を言わず率先してこなし、営業マンたちを完璧にアシスタントする。それが私の仕事だ。
事務処理のスキルはどんどん上がり、物件査定からオーナーさんへの対応、各種書類の作成と、不動産売却に関する知識も経験も完璧だ。
その辺の新人営業マンよりも、ずっと仕事ができると自負してる。
だけど、正式に営業にならないかという誘いを断り続けているのにはわけがある。
私には、仕事よりもなによりも、大切なことがあるのだ。
その、だれにも知られてはならない秘密を守るために、私は本音の上にはりぼての外面を張り付けて完璧な女を演じる。
いつも微笑みを絶やさず、背筋を伸ばし、仕事をする。
完璧でいれば、誰も不快にさせず迷惑もかけず、不用意に深入りされることもないから。
二十七年の人生で、そう学習したのだ。