腹黒王子に秘密を握られました
「お父さん、金子さんにあんまり飲ませすぎないでね。帰れなくなるから」
ゆるゆると続くお父さんと金子の酒盛りに、不安になって声をかける。
もうすっかり日も傾き、紅く染まっていた窓の外の里山が、今は夕闇に溶けていた。
「え? 今日帰るの? さっききたばっかりなのに?」
「泊まっていかないのか?」
驚く父母に私は顔をしかめて首を横に振った。
「帰るよ。最終の新幹線に乗って」
「今日帰るのはもう無理でしょ。泊まっていきなさい。明日は休みなんでしょ」
「えー、大丈夫だよ。たしか最終十時過ぎだったし」
「すっかり都会ボケしたわね、莉央。十時に新幹線の駅までどうやって行く気?」
「どうやってって、普通に電車で……」
そう言いかけてハッとする。
……まさか。
「残念でしたー。この田舎の駅の最終は七時だから、もう間に合いません」
「くっ……、しまった!」
電車なんて日付変わるまで走るもんだって感覚が染みついていたから、一日数度しか往復しない田舎の電車事情をすっかり忘れていた。
「諦めてうちに泊まりなさい」
「でも……」
日帰りのつもりで来たのに、いきなり他人の家に泊まれなんて言われたら、きっと金子も困るだろう。そう思ってちらりと金子の表情を窺うと、
「ありがとうございます。ずうずうしいですが、ご迷惑でなければ」
なんて、嫌な顔ひとつせずに微笑む。