腹黒王子に秘密を握られました
「やめてください。今は会社の人にオタクだってばれて気持ちがられないように、必死で本性隠して完璧装ってるんだから、全然堂々としてないです」
「裏表があるのは当然じゃん。俺だって、会社ではかなり猫かぶって仕事してるし」
そう言われれば、そうだ。
普段会社にいる時の金子は、素の今とはまるで別人だ。
「俺、最初に入った不動産会社で、新人なのにいい成績とって営業なんてチョロイと思って舐めて仕事してたんだ。客の前でだけニコニコして、会社では偉そうなこと言ったりして。ずっと強気の営業してうまくいってたんだけど、二年目くらいでちょっとタチの悪い団体がらみの不動産屋と仕事が被って、因縁つけられて家主にも会社にも嫌がらせさせられた時、先輩も上司も誰も助けてくれなかった。すげー冷めた目でみてくんの。なんでだよって腹立ったんだけど、よく考えたら自分も先輩や同僚が困ってる時、知らん顔して笑ってたなと思って。自業自得なんだと思った」
「そんなことがあったんですか……」
「そ。それで会社にいづらくなって、今のとこに移ったんだ。誰でも多かれ少なかれ、仕事しやすいように自分を作ってうまくやってるだろ。俺とお前はちょっと極端だけど」
優しく微笑まれ、黙り込んだ。
こうやって素の自分を肯定されたのははじめてで、どういうリアクションをしていいのかわからずに視線を泳がしているうちに、ホームに電車が入って来た。