腹黒王子に秘密を握られました
自分だけのお城も、宝物のおもちゃも、大好きな両親との生活も。拓斗くんはこんなに小さいのに、これから大切なものを手放さなければならないんだ。
その時、「なんで離婚するんですか?」という能天気な声が聞こえてきた。
ぎょっとして振り返ると、査定の勉強のためについてきた柴崎くんが、拓斗くんのお母さんに向かって無邪気にそう聞いていた。
「なんでって……」
そんな込み入った事情、他人の不動産屋に話すわけがない。
驚いて口ごもるお母さんに、柴崎くんはさらに身を乗り出した。
「お父さんもお母さんも常識的でいい人そうだし、金銭的に困ってるようにも見えないし、なにが理由で離婚をするのか不思議に思って」
お前、なにそんな無神経な質問をしてるんだよ! 何考えてんだ!
その童顔のかわいい笑顔を浮かべれば、なんでも許されるとでも思ってんのかよ!
ぎょっとして目を丸くした私の隣で、拓斗くんが立ち上がった。
「僕も知りたい! どうしてパパとママが離れて暮らさなきゃならないの?」
「拓斗……」
「僕のせいなの? 僕がいるからふたりともすぐケンカしちゃうの?」
顔を真っ赤にして見上げる拓斗くんに、お父さんもお母さんも途方にくれたように顔を見合わせた。