腹黒王子に秘密を握られました
いつか、あのさわやかなイケメン顔に思いきり鼻フックをしてやりたい!
誰からも好かれる好青年の変顔を、思いきり笑ってやるんだ。
なんて思いながらハッとする。
いやいや、そんな妄想をしている暇はない。もう時刻は七時をすぎている。タイムリミットは刻々と近づく。
見逃したアニメはもちろんしっかり録画済み。リアルタイムで見ることはかなわなかったけど、やることやってからゆっくり楽しもう。
それよりも、今日中に原稿を完成させてデータを送らなきゃ、新刊が落ちる。
私は慌ててパソコンの電源ボタンを押し、立ち上がる間に洗面所にダッシュしてコンタクトを外し、眼鏡をかける。
転んだせいで膝に穴が開いたストッキングをゴミ箱につっこみ、床に転がっていたスエットの上下に着替える。
前髪は邪魔だから、その辺に転がっていたダブルクリップを使いちょんまげにして止める。
明るくなったディスプレイの前の椅子に、背中を丸め片膝をたてて座る。
まるで社内にいる時とは別人のような姿。これが私の本来の姿だ。
ワンルームのマンションの壁一面に張られたアニメのポスター。
ベッドのヘッドボートの上に綺麗に積み上げられた各種グッズ。
キャラクターの顔がプリントされたクッション。
本棚にはもちろん大好きな漫画がズラリと並ぶ。