腹黒王子に秘密を握られました
 



「――では、リフォームはせずに、このまま買い手を探す方向でよろしいですね?」


金子の言葉にオーナーの女性、西村さんはうなずく。

「金額はこの額で、物件情報を当社のホームページや不動産ポータルサイトへ掲載させていただきます。来月の土日に内覧会を開きたいと思っているので、それに合わせて折込みちらしも配布します」

「本格的ですね」

本当に売却すると言う現実味が湧いて来たのか、西村さんはテーブルの上の書類から視線を上げ、ほうっとため息をついた。
俯いた白い頬に、睫毛の影が落ちて悲しげに見える。

「寂しくなってしまいましたか?」

思わず私がそうたずねると、「少し」と小さく微笑んだ。

その視線の先には、庭でしゃがみこむ柴崎くんの背中。

ってか、柴崎、お前はなにをしてるんだ。
西村さんのおうちにお邪魔したとたん、『商談の邪魔になりそうなんで、俺はお庭で草むしりしてまーす!』とお得意の敬礼ポーズを取った彼は、その言葉通り、ずっと家に入らず庭にいた。

商談の場にいないと営業の勉強にならないだろうが。なに草むしりしてんだよ。

と、つっこんでやりたかったけど、金子がなにも言わないのでしかたなくそのまま好きにさせてる。

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