腹黒王子に秘密を握られました
「あの柿を食べることもないんだなぁと思うと、寂しいです。子供の頃から毎年楽しみにしてたんですよ。新しい持ち主さんに渡ったら、切られちゃうかもしれませんね」
そう言いながら目を細める西村さん。
庭に立った立派な柿の木。
大きく広がった枝の先には、つやつやとした柿がなっていた。
「あれ、甘柿なんですね」
「けっこう甘くて美味しいんですよ。よかったら食べてみます? マンションの両親にも持って行ってあげようかな。この柿が食べれられるのも、今年が最後だし」
そう言いながら、立ち上がり庭に続く掃出し窓へと近づく。
すると気配に気づいた柴崎くんがこちらを振り返った。
「どうしたんですか?」
「柿を取ろうかと思って。確か物置に高枝ばさみがあったはずなので……」
「じゃあ、俺登って取りますよ」
西村さんの言葉を最後まで聞く前に、柴崎くんは立ち上がり、柿の木に手をかけた。
「あ……」
声をかける暇もなく、ひょいひょいと木に登る柴崎くん。
小柄な彼はまるで身軽な猿のようだ。
「ちょっと、柴崎くん!」
あっという間に高い場所まで登ってしまった柴崎くんに、慌てて私は声をかける。
「危ないから、降りてきて!」
「大丈夫ですよー。俺運動神経いいほうだし」
運動神経の問題じゃないんだよっ!