腹黒王子に秘密を握られました
下から叫ぶ私を無視して、柴崎くんは実の成った枝の先に手を伸ばす。
「ダメだってば!」
「わ……っ!」
私の叫び声に重なって、パキパキという乾いた音がした。
だから危ないって言ったのにっ!!
広がった枝に手をかけ、体重を移した途端、柿の枝が折れる。
慌てて素足のまま庭に駈け出した私の目の前で、鈍い音がして柴崎くんの身体が地面にたたきつけられた。
「大丈夫っ!?」
駆け寄り柴崎くんの顔をのぞきこむ。
頭を抱えて起き上がらせようとすると、
「莉央、頭を打ってるかもしれないから、下手に動かさない方がいい」
と金子に言われ、慌てて手を引っ込めた。
「いってぇ……」
地面に転がった柴崎くんは、苦痛に顔を歪めながらも意識ははっきりしているようで、ぱちぱちと瞬きをしてからこちらを見上げた。
「大丈夫? 柴崎くん」
「はい、大丈夫。びっくりしたー。いきなり枝が折れるんだもん」
幸い地面が柔らかい芝生だったおかげで、大した怪我はしてないようだ。
「……こんのバカがっ! 危ないから降りなさいって言ったのに! 柿の木は枝が折れやすいから危ないなんて、常識でしょうがっ!!」
思わず全力でそう怒鳴ると、柴崎くんはきょとんとして目を丸くする。
「わ、友野さん、こえぇー」
「友野さん、お客様の前だから」
柴崎くんに驚かれ、金子に窘められ、素が出てしまったことに気づいてハッとする。
しまった。仕事中は必死にかぶっていた、猫がはがれた。