腹黒王子に秘密を握られました
「まぁ、まだまだ勉強が必要だろうけど、他人に嫌われない要素が自然と身についてるから」
「人に嫌われない要素、ですか?」
「そう、慣れない不安な場所では無意識に変なクセがでるもんだけど、あいつ無駄に顔に触ったり身体を揺らしたりするクセもないし、言葉遣いは馴れ馴れしいけど語尾まできちんと発音するから、話しててあまり不快な感じを持たれないし。なにより人の顔をちゃんとみて、相手の気持ちを推し量れる」
「え、推し量ってました?」
「だから西村さんの家では相手が男が苦手だって見抜いて庭で草むしりなんてしてたんだろうし。拓斗くんの家では両親がなにか隠してると思ってあんな質問したんだろ」
「そうなんですか……?」
私にはただの気まぐれとしか思えなかったのに。
「拓斗くんのおうち、なにか隠してるんですか?」
「俺もちょっとひっかかってたんだ。あのマンションの間取りなら離婚して母子家庭になっても住み続けた方が得だと思うのに、買って一年もたってない、丸々ローンが残ってる状態でも売ろうとするなんて、なんだか腑に落ちない」
「でも実家に帰ろうと思ってるのかもしれないですよ」
「それはない。二課のほうでこの近くの賃貸物件を探してるから」
「そうなんですか……」
それは確かにちょっと不思議だ。
そう思って首を傾げていると「あいつけっこうするどいから、お前も気を付けろよ」とくぎをさされた。
「気を付けろって、なんにですか?」
「油断して、柴崎に付け込まれるなよ」
何を言ってるんだこいつは。
いつも完璧な外面を張り付けて、人に見えない壁をつくって、本性を隠してきた私が、配属されたばかりの後輩なんかに付け込まれるわけがない。
そう言って胸を張ると、呆れたようにぽんと頭を叩かれた。