腹黒王子に秘密を握られました
事務所に戻り、柴崎くんが怪我をしたので家まで送っていったことを報告して、残っていた仕事を終えロッカーに行くと、ちょうど帰る仕度をしていた一課の相楽真子に睨まれた。
「あ、友野さん柴崎くんのおうちまで行ったそうですねー。さすが手がはやーい。次は柴崎くん狙ってるんですかー?」
なんて、とんでもないことを言われてぎょっとする。
いやいやいやいや、怪我をしたから仕方なく送って来ただけだからね?
下心なんて微塵もないからね?
「ちょっと、真子。本人にそんな悪口やめなよー」
それを横で聞いていた同じく二課の事務の子が、クスクス笑いながら窘めるように言う。
「だって、一課は金子さんもいるのに柴崎くんまで持ってくのってずるくなーい? 一課の課長も既婚者だけどけっこうカッコイイし。なんか二課しょぼい男しかいなくてやる気でないしー」
ぷりぷり怒りながらコートを着込む相楽さん。
確かに二課に比べて一課は顔面偏差値高いかもしれないけど、そんなことで私に文句を言われても困る。
人事に言ってくれ。
「真子は本当にイケメン好きだもんねー」
「悪い? だって見た目が悪い男なんて恋愛対象にも入らないし、イケメンは正義だから」
きっぱりと言い切る相楽さんに、思わず感心してしまう。
言ってることはめちゃくちゃだけど、そこまで趣向がはっきりしていると、いっそ清々しい。
「ほんと真子は極端だよねー」
「だから彼氏できないんだよー。この前の合コンの時だって相手の顔見た途端全員不合格とか言い出すしさぁ、幹事の子怒ってたよ?」
「仕方ないじゃん。あのレベルの男と楽しくお話するなんて、時間の無駄だし」
「うわー、出たよ真子の上から発言」
なんてキャッキャと楽しそうに話す二課の女の子たちの会話を聞き流しながら、大きなため息をついた。