腹黒王子に秘密を握られました
私の目の前の手すりを掴んだ金子の手が、綺麗だなと思わずみとれた。
爪が営業マンらしく短く切りそろえられていて、こんなところにもちゃんと気を使っているんだなと感心する。
そんな完璧な王子様が、私の前であくびをひとつ。
整った顔の金子が大口を開けてあくびをする無防備な姿が、なんだかかわいい。
「金子さん、出社するの早いですね」
始業時間より三十分も早いバスに乗ってる金子に不思議に思ってたずねた。
「お前だって、人のこと言えないだろ」
「私はトイレ掃除とかしたいので。金子さんはなんでこんな朝早く出社したんですか?」
「なんでかわかんない?」
「わかんないです」
「にぶいな」
首をかしげる私を見て、金子が顔をしかめる。
あ、そろそろ降りるバス停だと思って椅子から立ち上がろうとすると、腰に手を回され身体を引き寄せられた。
「ひゃ!」
驚いて目を丸くした私の耳元に、金子が微笑みながら口元を寄せる。
「少しでも長く、お前と一緒にいたいからだろ。最近一課に柴崎が来たせいで、会社でふたりになれる時間減ったし?」
「ファァーーーーーっ!!」
唇が耳たぶに付きそうなくらいの距離でそう囁かれ、腰が抜けた。