腹黒王子に秘密を握られました
頭に置いてあった手が私の後頭部に回り、ぐっと顔を引き寄せられる。
どうしたんだろうときょとんとしていると、
「どうした?」
背後からよく響く声が聞こえた。
「あ、金子さん」
振り向くと、めずらしく不機嫌そうな顔をした金子がこちらを見ていた。
いつも会社では爽やか王子キャラのくせに、仮面がはずれかけてるよ。
「あー、のぼりの旗を洗ってたんですけど、俺が水をとばしちゃって」
柴崎くんはそう言いながら、私の前髪からぽつりぽつりと滴る水滴を指でぬぐってくれた。
冷たい水で濡れた頬や首、胸元のあたりをタオルで拭いてくれる柴崎くんに、私がおとなしくされるがままになっていると、金子は険しい表情のまま着ていた上着を脱ぎ、こちらに近づいてきた。
そしてタオルを持っていた柴崎くんの手を払い落とし、無言のまま私の肩にスーツの上着をかける。
「わ、金子さん、スーツ濡れちゃいますよ」
「いいから。行くぞ」
私の気遣いをぴしゃりと跳ね除け、乱暴に私のゴム手袋を外させ前でスーツを掻き合わせると、肩を抱いて歩き出す。
「あ、柴崎くん。汚れは洗ってあるから、あと水ですすいで干しておいてくれる?」
かろうじてそう言い残すと、私は強引にロッカーへと連れていかれた。