腹黒王子に秘密を握られました
 
「そういう問題じゃねーよ!」

「金子さんが嫌なら、違う場所で着替えますね」

面倒だから事務所に戻ろうと背を向けると、ぎゅっと手首を掴まれた。
そのまま力任せに引き寄せられ、身体を壁に押し付けられる。

「お前ふざけんなよ」

低い声でそうつぶやいた金子の表情は、怖いくらい真剣だった。

「なんでそんなに怒ってるんですか」

「もうちょっと警戒しろって言ってるんだよ」

背の高い金子に至近距離から見下ろされて、居心地の悪さにどうしていいのかわからなくなる。
どうにか距離をとろうともがいたけれど、背中は壁に押し付けられ、目の前には金子の身体があって、身動きすらとれなかった。

「警戒してますよ。いつも完璧な外面貼り付けて、不用意に他人に踏み込まれないように壁を作ってるじゃないですか」

「どこが完璧だよ。穴だらけじゃねーか」

「なんですか、ケンカ売ってるんですか?」

「なんでそうなるんだよ。お前本当にバカだな。それともわざと隙作って、柴崎を誘ってんの?」

「はぁ? 私が柴崎くんを誘うわけないじゃないですか」

「そんな無防備で自覚ねぇのか。タチわりぃ。じゃあ、いっつも柴崎のこと目で追ってんのも無意識かよ」

「意味分かんない。変な因縁つけないでくださいよ」

バカって、タチ悪いって。そんな言い方しなくても。
理由もわからず貶されて、さすがに私もイライラする。


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