腹黒王子に秘密を握られました
 
「大体、金子さんは恋人のフリしてるだけなんだから、私が柴崎くんに触られようが誘おうが、関係ないじゃないですか」

むっとして睨み返すと、金子は黙り込んだ。
いつものうさんくさい爽やかな笑顔ではなく、私だけに見せる意地悪な表情でもない、はじめて見る傷ついたような顔に、戸惑ってしまう。

こんな言い合いいつものことなのに、突然そんな顔をされたら、私が悪いみたいじゃないか。
気まずい空気に、謝った方がいいのか、それとも話題を変えた方がいいのかと思案していると、金子がため息をついて口を開いた。

「……悪い。確かに俺の口出すことじゃねーよな」

突き離すような冷たい表情で言って、私に背を向ける。

「ちゃんと濡れた髪拭いて、服も着ろよ」

それだけ言うと、金子はロッカーから出て行った。



「なに、今の表情……」

今まで私がどんなに怒鳴っても叫んでも、いつも飄々と受け流して笑ってたクセに。

金子は私よりもずっと上手で大人で、どんなことを言っても傷つかないんだと思ってた。
どんな悪態をついても全部受け止めて言い負かして、最後には意地悪に笑って頭をなでてくれると思ったのに。
それなのに……。

あんな他愛もない言い合いで、本気で怒るなんて。
胸の中にどうしようもないもやもやが胸を覆って、私はしばらくその場所に立ち尽くしていた。



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