腹黒王子に秘密を握られました
体調が悪い時にひとりで過ごす夜は、なんでこんなに心細いんだろう。
うっすらと目を開けると、壁に貼られたアニメのポスターと目が合う。
棚に綺麗に並べられたぬいぐるみにフィギュア。コルクボードにディスプレイしたステッカーやキーホルダー。
大好きな物に囲まれた部屋なのに、どうして今はこんなに寒々としているんだろう。
あー、弱ってるなぁ。
具合が悪いと気弱になるけど、こんなに不安なのは一人暮らしをしてからはじめてだ。
花乃に電話して助けてもらおうかな、と思ったけれど、この間の電話でしばらく仕事が忙しくて大変だと愚痴っていたのを思い出す。
それなのに、風邪くらいでこんな時間に呼び出すわけにはいかない。
そう思いながら視線を上げると、ベッドのヘッドボードに置いたフィギュアが目に入った。
金子がコンビニのくじで当ててくれたフィギュア。
金子は今なにしてるかな。
もし具合が悪いって連絡したら、看病しにきてくれるかな。
でも、そんな電話できるわけない。
私たちは恋人のフリをしてるだけなんだから、迷惑だって思われるに決まってる。
思わずそっと手を伸ばす。
温もりの無い無機質な人形を胸に抱きしめぎゅっと身体を丸めた。
今日会社で見た、突き放すような冷たい表情の金子を思い出す。
「さみしい……」
ぽつりとそうつぶやいても、胸の中のフィギュアは相変わらず綺麗な笑みを浮かべたまま、返事もしてくれなかった。
なにか返事してよ。
バカだなって意地悪に笑ってよ。
いつもみたいにからかってよ。
あぁ、熱のせいで頭がぼうっとする。
目尻から涙がこぼれてつたうのを感じながら、ぎゅっと目を閉じて布団の中に潜り込んだ。