腹黒王子に秘密を握られました
事務所に戻り、鼻をすすりながらパソコンを操作する。
さすがにこの時期にオープンテラスは少し寒かった。
ってか、病み上がりにあの席を指定するとか、あいつは鬼か。
そう心の中でぶつぶつ文句を言いながら小さく手を擦り合わせていると、肩になにか置かれた。
見れば肩にかけられたのはチャコールグレーのハイゲージのシンプルなカーディガン。
驚いて振り向くと、そこには金子が立っていた。
「あ……、金子、さん」
「寒いなら、着てろ」
それだけ言って、きびすを返す。
その素っ気ない口調に、私は思わず彼を追いかけた。
「あの、待ってください」
「なに?」
ひと気のない廊下で、こちらを振り返る不機嫌そうな金子。
先週口げんかをしたまま会話をしてなかったから、こうやってふたりきりで向き合うのは、少しきまずい。
「カーディガン、ありがとうございます」
「別に、また風邪ひいたら困るから」
「あ、週末の忙しい時に休んですみませんでした」
「ん」
そう言いながら、金子は私から目を逸らす。
さっきの柴崎くんの言葉を思い出した。
本当だ。
まるでわざと目を背けるように、私のことなんて見ていない。
柴崎くんの、言うとおりだ。