腹黒王子に秘密を握られました
無言でポケットをさぐり、何かを取り出してこちらに差し出した。
不思議に思って手を出すと、見覚えのあるUSBを、ぽとりの手のひらに落とされた。
「これ……」
「返す。もう会社の奴にばらすぞなんて脅さないから、お前の好きにしろ」
それだけ言って、金子は私に背を向け歩き出す。
残されたちっぽけなUSBメモリー。
もし一か月前の私だったら、これで恋人のフリをしなくてすむ。自由だひゃっほーい! なんて浮かれて叫んでいたことだろうけど、今はどうしてかすごく寂しくて、ぎゅっと手のひらを握りしめた。
「ほら、やっぱり、俺の言ったとおりでしょ」
いつの間にか背後にいた柴崎くんがそう言って笑った。
「これで俺と付き合えますよね?」
「……無理だよ」
「どうして?」
どうしてと言われても、頭の中がぐちゃぐちゃで、自分の気持ちがよくわからなかった。
「今はなにも考えたくない」
俯いたままでそう言うと、柴崎くんは小さくため息をついた。