腹黒王子に秘密を握られました
 


「今日拓斗くんのおうちにまた商談に行くんですねー。俺もついて行っていいんですか?」




柴崎の明るい声に顔を上げる。金子とふたりで今日の予定を打ち合わせしているらしい。

拓斗くんの家に行くんだ。
この前の柴崎くんの失礼な発言で、てっきり違う不動産会社と契約してしまうかと思ったけど。
そう思いながら、ぼんやりとふたりの様子を眺める。

「いいけど、また変なことを言うなよ」

「了解でーす」

柴崎くんはピッとお得意の敬礼ポーズで無邪気に笑う。

「友野さんも行きますよね?」

突然話の矛先をこちらに向けられて、驚いて小さく飛び上がった。

「いや、友野さんは病み上がりだし、任せるよ」

ちらりとこちらに視線を移し、優しい微笑でそう言う金子。
まるで、お互いの本性を知る前のような、他人行儀な笑みだ。

「えっと、私は……」

この三人で外出するのは気まずくて断ろうとすると、柴崎くんにさえぎられた。

「行きますよね? 友野さん来ないと、拓斗くんがっかりしちゃいますよ」

そう言われると、断りづらくて、曖昧にうなずいた。
結局、金子との恋人のフリは終わったけれど、会社ではイヤでも顔を合わせなきゃいけなくてすごく気まずい。
そう思っていると、柴崎くんが近づいてきて顔をよせた。

「拓斗くんのおうち、きっと今日もすごく綺麗なんでしょうね。あんなにホコリひとつなく掃除しているのに、空気清浄機が何台もあって、お風呂もまるで無菌室みたいにピカピカなんですよ。友野さんのあのグッズまみれの部屋も、少し見習えばいいのに」

耳もとでそんな嫌味を言われ、むっとして睨むと、へらりと柴崎くんが笑った。




 

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