腹黒王子に秘密を握られました
 

拓斗くんもその事情はもうわかってるんだろう。
リビングに面した子供部屋から、大人たちの話を複雑そうな表情で聞いていた。

「拓斗くん、お引越しさみしい?」

思わず聞いてから、無神経な質問だったかなと反省する。
けれど拓斗くんは首を横にふって口を開いた。

「ここのおうちから出ていくのはさみしくないよ。このお部屋にきてから、パパとママの喧嘩が多くなったから、このお部屋はよくないんだ」

「このお部屋がよくない?」

不思議に思って首をかしげる。

綺麗で明るい新築のマンション。広い子供部屋もあるし、とても素敵に見えるのに、拓斗くんはこのマンションが嫌いなんだろうか。
そう思いながらぐるりと部屋を眺める。

そして目に留まった空気清浄器。
最新型の立派なものが、子供部屋でもリビングでも小さなモーターの音をたてて動いていた。

「この部屋に引っ越してから、パパとママの仲が悪くなったの?」

「うん。僕が具合悪くなることが多くなって、それが原因でケンカばっかりするの。この部屋から引越せば、またなかよしのパパとママに戻ってくれると思ったのに、もう一緒に住めないんだって」

「具合が悪くなったの?」

「うん、目がかゆくなっちゃったり、頭が痛くなったり。ママが一生懸命お掃除して空気を入れ替えをしてくれて、よくなったんだけど」

「もしかして、シックハウス症候群……?」

そうつぶやくと、がたりと音がした。
ふりかえると、焦った顔をした拓斗くんのお母さんがこちらを見ていた。

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