腹黒王子に秘密を握られました
「大丈夫です。基準値以上の数値が出れば、販売元に保証を求めることもできますし、出なければ問題なく売却できます。今まで不安を抱えてらしたでしょうが、私たちもパートナーとして尽力いたしますので、安心して頼っていただけると嬉しいです」
力強い言葉に、強張っていたご両親の表情がほっと緩む。
「ありがとうございます」
それまでずっと黙り込んでいた柴崎くんが突然、
「拓斗くんのシックハウス症候群が原因で離婚するんですか?」
と聞いてきた。
またもや暴走を始めた柴崎くんにぎょっとする。
あいつはまた無神経な暴言を吐くのかよ!
そう思って慌てたけれど、拓斗くんのお父さんは苦笑いしながら頷いた。
「原因、というわけではないですが、きっかけはそうですね。新築のマンションを買おうと言いだしたのが自分で、妻は反対したんですが、会社の近くに住みたいと押し切って、引っ越してみたら拓斗にシックハウス症候群の症状が出てしまって」
そう言いながら、隣に座るお母さんに視線を移す。
お母さんは黙り込んだまま、手元を見つめていた。
「それで気持ちに余裕がなくなって、お互いを責めるようになって、ぎくしゃくして……。妻はホコリひとつあると許せないくらい神経質になって、俺はそんな細かいことを気にする方が拓斗に悪影響だって、口を開けばいつも決着の見えないケンカになって、もう噛み合わなくなってしまって」
「私たちふたりとも、拓斗のことを一番に考えているのに、ぶつかり合うばかりになってしまったんです」