腹黒王子に秘密を握られました
仕方なく、私の取った行動は、会社に向かうことだ。
完成した原稿のデータをUSBに移し、スエットの上からトレンチコートを羽織る。
なんとも情けない恰好だけど、スエットのズボンのすそを捲り上げればトレンチコートの下はからは見えないし、なんの問題もない。
この時間営業所にもう人はいないだろうし、コートさえ脱がなきゃ大丈夫だ。
コンタクトにかえるのは面倒で眼鏡をかけたまま家を出て、会社へ急ぐ。
ビルを管理する守衛さんに声をかけ、忘れ物をしてしまったのでと社員証を見せてお願いする。
完璧なスマイルを浮かべる社員証の写真と、眼鏡をかけた今の私のギャップに、一瞬守衛さんは驚いたようにぽかんとしたが、すぐに笑顔で鍵を開けてくれた。
よし、会社のパソコンから入稿すればオッケーだ。
これで無事、日曜日のイベントに参加できる。
小さくガッツポーズをしながら、誰もいない営業部でパソコンを立ち上げた。
「それにしても、本当についてない一日だったなぁ……」
データ送信中という画面を眺めながらつぶやくと、
「なにがついてなかったの?」
と、背後から誰かの声がした。