腹黒王子に秘密を握られました
第八章 波立つ心
□第八章 波立つ心
ゴシゴシゴシゴシ。
ゴシゴシゴシゴシ。
いつものように無心になって会社のトイレを磨いていると、バタン! と大きな音がして、開いていた個室のドアが突然閉まった。
「わっ」
驚いて飛び上がる。
すると閉まったドアの下の隙間から、足早に出ていくパンプスの影が見えた。
足音と一緒にかすかに聞こえた笑い声。
その笑いに含まれた悪意に、ぞくりと身を固くした。
最近こういう嫌がらせが増えた。
前は遠巻きに睨まれたり陰口を叩かれるだけだったのに。
でも、その理由は分かっているから仕方ない。
グッと歯をくいしばって前を向く。
今日も仕事だ、頑張ろう。
そう自分に気合を入れて、ゴム手袋を脱ぎトイレを出た。
すると、「友野さーん」と叫びながら飛びついてくる男。
「おはようございまーす!」
てめぇ、抱きつくんじゃねぇ!!
こんな会社の廊下で、何考えてんだよバカヤロウ!
「柴崎くん、突然ぶつかってくるの、びっくりするからやめてね」
額に青筋をうかべつつひきつった笑顔でそう言って、しがみついてくる腕をなんとか剥がす。