腹黒王子に秘密を握られました
ある日、
会社の帰りにスーパーに寄って買い物をしていると、見覚えのある女性が前を横切った。
あれ、だれだっけ、と思いながらぼんやりと眺めていると、振り返った相手と目が合った。
「あ、新栄ハウジングの……」
そう言われ、パズルがはまるようにパッ名前が出てくる。
「西村さん、お久しぶりです」
一軒家のオーナーの、西村さんだ。
「お仕事帰りですか? いつもと雰囲気違いますね」
仕事でお宅にお邪魔する時にしか会ってなかったから、こうやって違う場所で会うと一瞬誰か分からずに混乱してしまった。
今まで見たカジュアルな格好ではなく、仕事用の黒いスーツときっちりとまとめられた髪形は、柔らかく控え目な印象とはまた違って素敵だった。
「そうなんです。美容部員をしているので」
「美容部員さんなんですか。西村さん、肌が白くて綺麗ですもんね。うらやましいです」
「そんなことないです。元々が地味顔なのに、仕事柄どんどん化粧が濃くなってしまって。すっぴんとギャップがありすぎて、詐欺だって言われるんですよ」
「こんな素敵な西村さんに、詐欺だなんて失礼なことを言う人がいるんですか?」
私が驚くと、西村さんは「自分でもそう思うので」と恥ずかしそうに微笑んだ。
そのどこか嬉しそうな様子を見て、もしかして、と思う。