腹黒王子に秘密を握られました
「どうして」
上を向いたまま、口を開いた。
「柴崎くんこそどうして、私と付き合おうなんて言ったの? 柴崎くん、私のことなんて別に好きじゃないし、オタクとか絶対無理なタイプでしょ?」
強い口調でそう言うと、柴崎くんはうーんと小さく考え込んだ。
「そうですね。なんとなく」
「なんとなく?」
「金子さんと付き合ってるって噂を聞いてから、友野さんのこと気になったんですよね。オタクだって知ってびっくりしたけど、そういう知り合い今までいなかったから面白いなぁって思って」
まるで悪気が無い様子で屈託なく笑う柴崎くんを、ぼんやりと眺める。
「正直オタクの女の子と付き合うなんて恥ずかしいと思ってたけど、周りに内緒にしてるんなら別にいいかなぁって。腐女子とかなら気持ち悪いから正直ナシだけど」
「腐女子は、気持ち悪いんだ」
「別に趣味は個人の自由だと思うけど、自分の彼女だったらイヤっすね」
私、思いきり腐女子なんですけど。そうか、柴崎くんにはあの部屋しか見られてないから、ただのアニメオタクだと思われてるのか。
腐女子は、気持ち悪いかぁ……。
そうだよなぁ。そう思うのが普通だよなぁ。
きっと金子もそう思ってたんだろうな。
そう思うと、ずっしりと肩が重くなって、食欲がなくなった。
カフェを出て街をぶらぶら歩いている最中も、気分は落ち込んだままで、ちっとも楽しくなかった。
そんな私を見て柴崎くんは、あきれたようにため息をついた。