腹黒王子に秘密を握られました
飾らない素の姿を、私以外の人に見せないで。
そんな身勝手な言葉を口にしそうになって、慌てて口を引き結ぶ。
誰からも好かれる王子様のような金子が、根暗でオタクな腐女子の私を好きになることなんて、ありえないのに。
どんなに想っても、報われることなんてないんだ。
「……そうですか。西村さんによろしく伝えてください」
金子の顔を見るのがつらくて、うつむいたままそう言った。
自分の内側が、軋むように痛い。
誤魔化すように自分の右手で、胸のあたりをぎゅっと掴んだ。
そこにあるのは心臓で、心なんて不確かな物はないはずなのに、どうしようもなく苦しくなる。
二次元の世界ばかりを愛してきた私は、誰かを好きになることがこんなに痛いものだなんて知らなかった。
そうぼんやりと思いながら、事務所から出ていく金子のうしろ姿を見つめた。
気持ちを入れ替えるようにぎゅっと口元を引き締めて、持っていたゴミ袋を結ぶ。
もう帰ろう。
家に帰って大好きなアニメのDVDを見よう。
お気に入りの漫画を一巻から読み返して、宝物のフィギュアを抱きしめて眠ろう。
高校の時から、イヤなことがあった時は、そうやって家ですごした。
そうすれば悲しいことは自然と忘れて、大好きな二次元の世界のことだけを考えていられた。
だから今日だって、それで乗り切れるはずなんだ。