腹黒王子に秘密を握られました
「……お母さん」
『あんたが帰って来るときは、美味しい料理作って待っといてあげるけぇ』
それまでの勢いが嘘のように、優しい口調でそう言われ、じわりと目尻が熱くなる。
『はよぉ行ってきんさい、バカ娘が』
優しい声で背中を押すようにそう言って、ぷつりと電話は切れた。
その勢いのまま、私は歩き出す。
持っていたスマホで金子の番号を呼び出し、耳に当てる。
ゆっくりと歩き出した歩調が早足に、早足が駆け足に。
緊張の高まりとともに、どんどん身体が前に進んでいく。
電話が繋がった時には、もうほとんど全力疾走だった。
『もしもし?』
電話の向こうから聞こえてきた声に、胸が締め付けられる。
声を聞くだけで、好きだと感じてしまう。
「金子さん……!」
『どうした?』
「あの、少しでいいから、会いたいです」
決死の覚悟で言った私に、金子は驚いたように少し黙り、そして小さく笑った。
『いいよ。こっちに来る?』
「行きます! どこにいるんですか?」
金子の言う住所をメモし、タクシーを見つけて乗り込む。
逸る気持ちを落ち着けようと、タクシーの後部座席で、何度も深呼吸を繰り返した。