腹黒王子に秘密を握られました
「本当に、新栄ハウジングさんにはとてもお世話になりました。ありがとうございます」
そんなお母さんの横に並んで、こちらに頭を下げるのは、拓斗くんのお父さん。
どうして?
今日は西村さんのご両親に挨拶の予定だったのに、拓斗くんの家族も一緒にいるの?
頭の中が混乱してパニックだ。
「ではまた、書類などが揃いましたら、お伺いさせていただきますので」
丁寧な仕草で頭を下げる金子の言葉に、拓斗くんがぎゅっと私の手を握る。
「その時は、またお絵かきして遊んでね、お姉さん!」
「あ、うん……。また遊ぼうね」
なんとかそう頷くと、拓斗くんは嬉しそうに笑った。
なんどもこちらに手を振りながら、拓斗くんとご両親は三人で仲良く車に乗って去って行った。
その様子をぽかんとしたまま見送っていると、
「口、開いてる」
と金子がクスクス笑いながら私を指さす。
「あの、どういうことですか? なんで西村さんのご両親のマンションに、拓斗くんが……?」
「あぁ、西村さんの一軒家、売却取り下げることにしたから、その経緯を説明に来たんだよ」
「説明?」
「一軒家を売りに出してみたのはいいけど、建物を全て壊して新しく立て替えたいって買い手しか出てこなくて、それを知った西村さんが売却を渋ってさ」
「そうなんですか。リフォームでもなく、完全に取り壊しになるのは、もったいないですよね」
「それならいっそ売却はやめて、賃貸にすればって提案したんだ。丁度借り手は心当たりあったし」
「もしかして……」
ハッとして顔を上げると、金子は優しく微笑んで頷いた。