腹黒王子に秘密を握られました
 
「シックハウスは新築の物件で発生することが多いけど、西村さんの一軒家みたいな風通しのいい築年数のたった家なら、まずそんな心配はないだろうし、あの居心地のいい家なら、拓斗くんものびのび暮らせるんじゃないかと思って提案してみたら、すごく気に入ってくれて」

「拓斗くんが、あの家に……」

「西村さんのご両親も、本当はあの家を手放すのが寂しかったみたいで、毎年秋に柿の実を何個か届けてくれればっていう条件で、格安で賃貸に回してくれるって。拓斗くんの家もマンションのローンを抱えたままで困ってたから、すごく喜んでくれたよ」

神経質なほど磨き上げられた新築のマンションではなく、風通しのよくぬくもりのあるあの家でくらせるなんて、すごく素敵だ。

「それに、離婚も一度考えなおすって」

「本当に……!?」

嬉しくて思わず金子の腕を掴むと、優しく笑いながら頷いてくれた。

「柴崎の言葉が効いたみたいだ。子供のためって言い訳を使って、自分を正当化することばかり考えてたって。シックハウスに怯えることなく、のんびりと過ごせるあの家なら、お互い譲り合ってもう一度頑張れそうな気がするって言ってた」

「よかった……」

「それにしても、俺きっと課長に大目玉くらうぞ。専売契約を結んでた物件を、わざわざ賃貸に回すなんて」

苦笑いする金子に、思わず心配になる。
黙って売れれば百万円近い手数料が入ったのに、賃貸になってしまえば違う部署の数万円の売り上げにしかならない。

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