腹黒王子に秘密を握られました

「じゃあ、用事は終わったので、私はお先に失礼します」

「待って」

くるりと背を向けた私を、金子が追いかけてくる。

なに、ちょっと。さっさと家に帰って、缶ビールを飲みながら、あんたのせいで見逃したアニメを楽しみたいんですけど。

そう思って振り返ると、長い指が私の前髪に触れた。

「これ、かわいいけど、外ではつけないほうがいいかも」

笑いをこらえたようにそう言われ、彼の手元を見れば、ダブルクリップ。

「はうぁ……っ!」

しまった。家での作業中、前髪が邪魔でそのへんにあったダブルクリップで止めてたんだった……!

慌てて手のひらからダブルクリップを奪い取り、私は全力で会社から逃げ出した。

なんて失態だ。
会社ではずっと完璧な女を装っていたのに。
よりによってあの金子敦に、こんな姿を見られたなんて……っ!

私はその晩部屋で一人、枕を殴り続けていた。
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