腹黒王子に秘密を握られました
「金子さん、何年私がオタクをやってきたと思ってるんですか。筋金入りの腐女子ですよ。二次元の酸いも甘いも吸いつくし、大人の事情で打ち切りになるたびに枕を涙で濡らしてきた日々。公式を支えるために好きなジャンルにコツコツコツコツ貢ぎ続けたこの十数年。それを三次元の男と比べてどちらが優位だなんて、愚かなことを私が言うとでも?」
「あぁ、そんなこと聞いた俺がバカだった」
はぁーっと長い長いため息を吐きだして、金子が額を押さえた。
もしかして、あきれられちゃった?
やっぱり、こんなオタク気質な女、気持ち悪いと思われた?
心配になって金子のことをじっと見つめていると、ゆっくりと顔を上げた綺麗な顔がこちらを見た。
さらりと流れた薄茶色の髪の間から、こちらを見据える涼しげな切れ長の瞳。
「まぁいいか」
そうつぶやいた口元が微かに持ちあがり、綺麗な弧を描く。
獲物を追い詰めた捕食者のように、にやりと笑った。
「すぐにそんな余裕なくなるくらい、俺に惚れさせるから」
そんな傲慢なことを言う目の前の男は、悪魔のように魅力的だ。
くやしいけど、すでに余裕なんて微塵もない。
大好きで、大好きで、もう泣きそうだ。
「おいで」
そう言って差し出された大きな手。
「帰ろう」
優しく微笑まれて、恐る恐るその手を取った。