腹黒王子に秘密を握られました


「次の日、会社でなにか言われたりしたの?」

日曜日。
同人誌即売会のイベント会場で隣に座る友人の花乃の言葉に、私は仏頂面で首を振る。

「なぁんにも。一切そのことには触れられてない」

深夜の事務所で失態を見られた次の日、帰国中のエリートの彼氏とラブラブな時間を過ごしているはずの私が、眼鏡姿で頭にダブルクリップをつけて会社にいたなんて、絶対みんなにからかわれるんだろうなと、憂鬱な気分で会社に行くと、誰も私のことを笑う人はいなかった。

どうやら金子敦は、私の情けない姿を、誰にも言わないでいてくれたらしい。

「へぇ、イイ人じゃん。そのイケメン営業マン」

イイ人なのか。
それとも私なんかにまったく興味がないのかは分からないけど、まぁ助かった。

入社してから五年、必死に作って来た私の完璧な人物像をぶち壊されたら困るから。

「それにしても、今日は豊作だわー。これでまた半年間がんばれる」

私はそう言いながら、今日の収穫の山を見て微笑む。
今日の同人誌即売会のイベントでゲットした神々の薄い本だ。持って帰ってじっくり読んで、家宝にするんだ。
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