腹黒王子に秘密を握られました

早く読みたい。でも読むのがもったいない。ああ、もう笑いが止まらない。
表紙を眺めるだけでもよだれがでそうです。

この本の中にいくつもの男たちの恋愛がつまっているのかと思うと、私の胸ははちきれんばかりに踊る。

なんてほくそ笑んでいると、目の前をアニメのコスプレをしたレイヤーさんが通り過ぎる。
ふおぉ!
あれは私の好きなキャラ!
ふわぁぁぁ、素敵すぎる!

ここが天国か!
大好きなものにあふれたイベント会場でだらしなく頬をゆるめてにやける私を見て、花乃が呆れたようにため息をついた。

「莉央は相変わらず腐ってンね」

「えへへ。ありがとう」

「褒めてねぇし」

花乃はオタクではないけれど、こうやってイベントに付き合ってくれる優しい友達だ。
お目当ての同人誌をゲットするために私が会場を駆け回ってる間、スペースで売り子をしてくれる。

しかも、会社用の完璧女子の洋服は全部花乃のお見立てだし、髪形も化粧品も全部花乃のチョイスだ。
オシャレにも流行にもうとい私が、完璧女子を装っていられるのは、全て花乃のお陰だ。

世話焼きで姉御肌の彼女は、風変りな私のことが危なっかしくて放っておけないらしい。
私の趣味を理解しようとはしないけど、否定もしない、貴重な友達だ。

「それにしても、あんたの本は相変わらずあんまり売れないね」

スペースに残った同人誌の山を見て、皮肉を言う花乃に私は顔をしかめる。
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