腹黒王子に秘密を握られました
「いいの。自己満足だから。イベントは参加することに意味があるっ!」
エロ要素の一切ない、ひたすら純愛路線のオリジナル漫画は、正直あんまり需要が無い。
それでもいいんだ。こうやって自分の好きなシチュエーションを書いて、一冊でも売れればそれで満足。
『面白かったです』なんて感想をもらえたら、嬉しくてそれだけで五年は生きていける。
選手宣誓をする甲子園球児のように声高らかにそう言うと、目の前に背の高い人影があった。
お客さんかなと思って顔を上げた私は、そのまま凍りついてしまった。
「全部、一冊ずつください」
そう言ったさわやかな声に、私が反応する前に花乃が「はぁい」と愛想よく返事をして、机に並んだ同人誌を一冊ずつ袋に入れる。
「三冊で、千五百円です」
「はい」
バッグから財布を出そうとするその人に、私は慌てて声を張り上げる。
「ダメ!」
「はぁ?」
「花乃っ、その人に売っちゃ、ダメェぇぇぇっ!!」