腹黒王子に秘密を握られました
 

「あー、はいはい。尊い尊い」

彼女の横に腰をおろし、適当に会話を流しながら、ぐちゃぐちゃになった彼女の髪を指先で梳いた。

「もう、金子さん。私の話をちゃんと聞いてます?」

「聞いてる聞いてる」

そっけない俺の口調に、莉央は頬をふくらませつつも、大人しくされるがままになっている。
からまった髪を優しくほどき、顔を覆う髪を耳にかけてやる。そうしてやっとちゃんと顔を合わせると、莉央の顔をのぞきこんでにっこりと笑いかけた。

「それより、なにか忘れてない?」

「なにか?」

きょとんと首を傾げる莉央の前で、見せつけるようにネクタイを緩める。
するとようやく気づいた彼女が慌てて「あ、おかえりなさい! お疲れ様です!」と言ってくれた。

「ん。ただいま」

頷いて微笑む。
莉央の顔をのぞきこんだまま。
しばらくそうしてじっと見つめていると、莉央は居心地悪そうに、そわそわと視線を泳がしはじめた。

「金子さん……」

「なに?」

「そんなにじっと見られると、落ち着かないんですけど」

「俺は『お帰りのキス』はいつしてくれるのかなって、待ってるんだけど?」

「な……っ!」

俺の言葉に、莉央の顔がみるみる真っ赤になっていく。

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