腹黒王子に秘密を握られました
「お、お帰りのキスなんて……!」
「ふーん。恋人が仕事を終えて家まで来たっていうのに、帰りを待ってるどころか、何度チャイムを鳴らしても無視だし、俺が部屋に入ってきたことにも気づかないでアニメに夢中になってて、顔を見ても一方的にアニメの話をして『おかえり』も言ってもらえないなんて、愛されてねぇな、俺」
冷たい口調でそう言うと、それまで真っ赤だった莉央の顔が、今度はどんどん青ざめていく。
「いや、金子さん、そいういうわけじゃ……」
しどろもどろになってなんとか言い訳をしようとする彼女を見て、必死に笑いをこらえる。
赤くなったり青くなったり、アニメに顔を輝かせたり、少し意地悪なことを言っただけで泣きそうになったり。
会社ではいつも綺麗な微笑みを浮かべて仕事をこなす完璧な彼女が、実はこんなに表情豊かでからかいがいがあるなんて、ただの同僚だったときは、想像もできなかった。
「じゃ、どうすればいいか、わかる?」
冷たい表情のままでそう言うと、莉央が小さく頷いた。
おずおずと視線を上げ、ぎこちなくこちらに身体を近づける。
ちゅっと触れるだけのキスをした莉央が、また真っ赤になって俯いた。
「お、おかえりなさい……」
「ただいま」
キスなんてもう数えきれないくらいしたはずなのに、未だに恥ずかしがる莉央を見つめながら微笑む。
「こ、これでいいですか?」
俺の視線が落ち着かない様子で、もじもじしながらこちらを伺う莉央。
そんな彼女の顎を指先ですくい上げ、顔を上げさせた。