腹黒王子に秘密を握られました
ちっ。声をかけんじゃねーよ。こっちは急いでるんだよ。
心の中でついた悪態を、一ミリも外に漏らさない、完璧な笑顔で振り返る。
「はい。山下様が先日、住宅ローンについて相談したいとおっしゃっていたので、いつくか資料を用意しておきました」
「本当、助かる。ありがとう」
「いいえ、とんでもないです」
口角を上げ、恐縮したように首を振る。
どこからどう見ても、控え目で感じのいい笑顔。
その私の笑顔に負けずとも劣らない、百点満点の笑顔を返してくるのは、我が新栄ハウジングの営業一課の中で一番の成績を誇る、金子敦だ。