腹黒王子に秘密を握られました
「こんなとこ、会社の人に見られたらどうするんですか!」
通勤中のバスで、アイアンクローを決められ絶叫する姿なんて見られたら、私が作り上げた人物像が崩れてしまう!
「うるせぇ。こんな早い時間に出社するやつなんて、ほかにいねぇよ」
「それにしても、女の子にアイアンクローなんてひどい。恋人のフリをするんだから、もうちょっと優しくしてくれてもいいのに……」
「ふーん、優しくしてほしいんだ?」
「そりゃ、技をかけられるよりは、優しくしてほしいです」
なに当たり前のことを聞いてくるんだ。
ドМの変態でもなければ、痛くされて喜ぶ女なんていねぇっつの。
すると金子は小さく肩を上げ、こちらに手を伸ばした。
頬にかかる私の髪を指先ですくい上げ、耳にかけながら、さっきまで押さえつけていたこめかみに顔を寄せる。
「ここ、赤くなってる」
なにが赤くなってるだ、このやろう。
テメェが人の頭を鷲掴みにしたから、赤くなったんだろうが。
そう言い返そうとしたけれど、至近距離で金子敦に微笑まれ、私は言葉を失った。