腹黒王子に秘密を握られました
 
「痛くして、ごめんな」

耳もとで甘い声で囁くと、ちゅっと響いた微かな音。
まだじわじわと痛みを持っていたこめかみに、柔らかい唇が触れ、一瞬で離れていった。

「な、なななななな、なななnnnnnnn……っ」

「なに変な音たててんだよ」

キス?
キスされたの? 今。

え、ちょっと。
意味わかんない!

「お前が優しくしてって言ったんだろ」

優しくする=キスなのかよ。
お前、極端すぎるんだよ!
アイアンクローとキスの中間はねぇのかよっ!!

ってか、キス!!!
私、はじめてだったんですけどーーーーーーっ!?

「こめかみにキスなんて、数に入んねぇだろ」

入りますけどぉー!?
完璧に数に入っちゃいますけどぉーーっ!?

自分の価値観、人に押し付けんな、このクソがぁっ!!!
あぁ、私のはじめてのデコチューが、三次元の男なんかに……っ!

もう、絶望しかない。
帰りたい。
おうちで綺麗なBL読んで、この汚れた俗物から浄化されたい。
きょうは会社早退します。
まだ出勤もしてないけど。

「なにバカなこと言ってんだ。ほら、さっさと降りるぞ」

「うう……」

私は金子に引きずられるようにして、バスから降ろされ会社に連行された。


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