腹黒王子に秘密を握られました
 

「今年マンションを買ったばかりなのに、もう売るなんて。拓斗くんのご両親、離婚しちゃうんですかね」

「まぁ、そうだろうね。離婚の財産分与のために売却するって雰囲気だから、本格的な査定が出れば、引っ越して離れて暮らすんだろうな」

「……そのマンション、売れなきゃいいのに」

そうしたら、あの家族はバラバラにならず、ずっと一緒に暮らしていけるのに。

「友野さん。それ本気で言ってる?」

思わず私がぽつりとこぼした言葉に、金子の声が低くなった。

「これは仕事で、俺たちは不動産のプロだ。売却したいって依頼があれば、どんな事情があろうと売るのは当然だろ? その手数料を貰って成り立ってる仕事なんだから、私情を挟んでどうすんだよ」

「それは、わかってますけど……」

思わず俯いた私に、金子は呆れたようにため息をつき、事務所から出て行った。

俯いた視線の先には、拓斗くんが描いた家族の絵。
パパとママと手を繋ぎ、大きな口で笑う拓斗くんが真ん中にいる絵を見て、どうしようもなく泣きたくなった。

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