腹黒王子に秘密を握られました

「すいません。今日は用事があって……」

「あれ、珍しい、金子が女の子に振られてる」

私たちのやりとりを見ていた課長が、面白がってからかってくる。

やめてくれ! 万が一にも私が金子を振ったなんて噂が広がったら、女子社員からの風当たりが強くなるじゃないか!

「諦めろ、金子。友野さんには遠距離恋愛中の彼氏がいるんだもんな」

「え、彼氏?」

先輩の営業マンの言葉に、金子が驚いて私の顔をのぞきこんでくる。

「ええと……」

曖昧に首を傾げると、さらに先輩が面白がって身を乗り出してきた。

「友野さんって普段男っけないのに、年に何回か妙に早く帰る時期があるじゃん。遠距離の彼氏がこっちに来てるんじゃないかって、二課の女の子たちが噂してたよ」

そんな根も葉もない噂を流したのは、間違いなく相楽さんたちだろう。

水面下で行われている金子争奪戦に私を参戦させたくないんだろうな。
そんな彼氏がいるなんて噂を流して牽制しなくても、そんな戦いにまったく興味はないんだけど。

噂好きで勝手な推測を無責任にあちこちで言いまわる女子社員には辟易するけど、いちいち訂正するのも面倒なので曖昧に首を傾げてみせる。

「なんか海外勤務のエリートらしいじゃん。お似合いだよなぁ。美人で仕事もできて完璧な友野さんに、エリートの彼氏」

年に数度やけに早く帰るってだけで、よくそこまで想像できるもんだ。しかもまったく的外れだし。
二課の女子たちにも、それを真に受けて知ったかぶりで話をする先輩にもうんざりして、こっそりため息をつく。

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